英語歌詞雑感

英語の歌詞に限らず、外国語の歌は、歌詞の内容がわかると「え!?」というような面白い発見がある。たとえば、チャック・ベリーの歌でジョニー・リバースが歌って大ヒットした‘Memphis Tennessee’だが、Long distance information, ではじまる。これは長距離電話交換台に呼びかけているのだ。Help me find the party trying to get touch with me の party に首をひねってしまうが、「電話の相手」と辞書に載っている。続いて‘She could not leave her number, but I know who place the call‘cause my uncle took the message and he wrote it on the wall.’電話をかけてきたのは女の子で、だれだかわかるんだが、電話を受けたおじさんが電話番号を聞くのを忘れたので、テネシーのメンフィス局に問い合わせてほしい――と展開する。つまり、離婚して元妻のところに置いてきた六歳のマリーから電話があったのだ。ミシシッピ橋から半マイルのところに住んでいて、別れたときは涙をこぼしていた。マリーのところへ電話をつないでくれないか……と、大変悲しいショート・ストーリーになっている。

Boney Mの‘Rivers of Babylon’は、大変ノリのいい、楽しい曲だ。YouTubeで韓国の若い女性たちがラインダンスを踊っているのを見た。「バビロンの川(複数)」というタイトルから、聖書にあるエピソードの一つを歌っているのかと思っていた。しかし、バビロンはバビロニアの首都であり、キリスト以前の話だ。バビロン捕囚とはユダヤ民族の南王国がバビロニアとの争いにやぶれて、バビロンの収容所に幽閉されたことをいう。‘By the rivers of Babylon where we sat down yeah we wept when remember Zion’「バビロンの川のほとりで、泣きぬれてシオンを想う」――このシオン(発音はzáiən)はダビデ王の墓があるとされるエルサレムの丘で、ユダヤ民族の建国運動―シオニズムの語源となった。次、‘When the wicked carry us away in captivity, required from us a song,’「よこしまな人々に歌を奪われた今、われらは異郷の地で、どうしたら神を讃える歌を歌うことができるだろうか」と、聖書は聖書でも、旧約聖書のまさにバビロン捕囚のことを歌っているのである。これは驚いた。世界史の大事件を歌うポップミュージックがあるとは。

だいたいにおいて、ポップミュージックは失恋の歌、別離の歌、故郷を想う歌が多い。ビートルズも初期の歌はそうだが、「オブラディオブラダ」は変わっている。デスモンドが歌手のモリーに一目惚れし、たちまち意気投合して宝石屋に走り、結婚指輪を買って幸せな家庭を築き、やがて庭で走り回る子どもたちを笑顔で見守るという歌である。「オブラディオブラダ」とは、幸せになるおまじないで、最後に‘If you want some fun, say OblaDi-Oblada’「楽しいことが欲しかったら、オブラディオブラダと言ってごらん」とポールが歌っている。

この歌の始まりは‘Desmond has a barrow in the market place.’で、以前、私は barrow の意味がわからなくて苦労した。当時、私が持っていた辞書は旺文社のエッセンシャルだったが、barrow の項には工事現場で土砂や瓦礫を運ぶ一輪車の絵があった。「デスモンドがマーケットでこれをもっているとは?まさか工事をやっているわけじゃないよな」と何年も疑問が解けなかった。あるとき、大学時代の同窓会があって、たまたまUSAに五年ほど駐在した同級生がいたので、OblaDi-Oblada の話から工事現場の一輪車の話もしてbarrow の意味を尋ねたら、彼はちょっと考えていたが、「そりゃあ、マーケットの前で大きな一輪車に野菜をのせて売ってるんじゃないか」と答えた。なるほど、それで歌の流れにぴったりだ。長い間の疑問が解けてすっきりした。と同時に、海外駐在の力は大したものだと感心した。

話は飛ぶが、ニーナ・シモンレの「スザンヌ」は、バックのギターを含めてとてもいい。ああ、やっとニーナ・シモンがわかるようになったか――と感慨にとらわれたものだ。この「スザンヌ」はレナード・コーエンの作詞・作曲だそうだが、「なかば気の狂った女が中国から来た紅茶とオレンジをふるまう」とか「イエスは船乗りだった」とか、意味がさっぱりわからん。

ホテル・カリフォルニア」は、カントリー・ウエスタンのバンドとしてキャリアあるイーグルスの名を世界に知らしめたヒット曲だ。これも「彼女の心はティファニーのねじれ、メルセデスの曲線」とかいって、さっぱりわからん。

上の二つと、「ファンダンゴ」がどうの「粉屋の物語」どうのという、あのプロコムハルムの「青い影」を、「三大歌詞難解曲」と名付けたい。