DVD「荒野の誓い」★★★★

エス・スチューデイは、彼自身北米先住民の血を引く俳優で、「モヒカン族の最後」「ダンス・ウイズ・ウルブス」に出ていた。「ジェロニモ」では、主人公のジェロニモを演じた。「ヒート」では、アル・パチーノの同僚の刑事役もよかった。怪獣に足から飲み込まれる変な映画もあった。この映画ではアパッチ族の酋長イエロー・ホークをやっている。癌のために死期が迫っているという地味な役なので、いささか期待はずれだが、彼も高齢になって、年相応の役なのかもしれない。

 クリスチャン・ベールは、前に見た「3時10分決断のとき」ではぱっとしなかったが、退役間近のジョセフ・ブロッカー大尉という渋い役で、なかなかよかった。

 イエロー・ホークとブロッカー大尉は、過去にはそれぞれの立場で争いを繰り返し、現在では、イエロー・ホークはブロッカー大尉に捕らえられてニューメキシコのベリンジャー砦に収容されている。癌が進行して余命いくばくもない彼の願いをいれて、出生地であるモンタナ州の「熊の渓谷」に帰すことになった。これには新聞を主体とする世論の盛り上がりもあり、大統領令も出ていた。

 砦からモンタナまでイエロー・ホークを護送する任務を受けたのが、ブロッカー大尉だ。先住民の言葉を話せて、地理に明るいという理由からだった。末期癌とはいえ、多くの友人や部下を殺した酋長を釈放することに彼は抵抗し、苦悩するが、結局任務を引き受け、4人の部下とイエロー・ホークの息子夫婦、孫を率いて出発することになる。

 出発そうそうに、丸焼けになって崩れ落ちそうになった家の中から、ただ一人生き残ったクエイド夫人を救出、保護した。実はこの映画はクエイド一家がシャイアン族の襲撃を受けるところから始まる。彼女はモンタナまで護送隊と旅をともにすることになる。「シャイアンやコマンチに襲撃されるおそれがある。ともに戦うから手錠をはずしてくれ」というイエロー・ホークの言葉を最初は信じなかった大尉だが、それが現実となり部下を失うと、手錠をはずさざるをえなくなる。

 途中で立ち寄ったコロラド州のウインズローン砦の司令官から、先住民虐殺の罪に問われたウイルス軍曹を裁判のためピアース砦まで護送することを依頼され、一行に加えることになる。この軍曹はもとはブロッカー大尉の部下で、ともに先住民と戦ったので、イエロー・ホークを生かして故郷に帰そうとする大尉を裏切り者となじる場面がある。大尉は困惑した表情を見せるが、すでに先住民の側に傾きかけた心は、このあたりで決定的になるようだ。軍曹はコーヒーを飲むのに鎖をはずされた隙をついて、大尉の部下を殺害し、逃亡する。大尉が最も信頼する歴戦の曹長がこれを追うが、男と相撃ちになった死体が発見される。

 苦難の旅の果てにモンタナ州「熊の渓谷」に着いたときは、イエロー・ホークは病死していた。大尉はイエロー・ホークのかつての居住地に埋葬するが、そこはすでに白人が所有する土地になっていた。三人の息子たちを引き連れた土地所有者は「インデアンの死体を掘り出してほかへもっていけ」と威嚇する。拒否するブロッカー大尉。撃ち合いとなり、生き残ったのは、大尉とクエイド夫人とイエロー・ホークの孫だけになってしまう。

 クエイド夫人とイエロー・ホークの孫がモンタナ駅から列車でシカゴに向かうラストシーンがいい。クリスチャン・ベールはどうも弱々しいところが気に入らなかったが、この映画では寡黙で武骨な軍人役を好演している。見直した。

 ところで、この映画の原題は“Hostilities”=敵意(複数)すなわち先住民と侵略者の敵対と融和の物語である。アイヌとシャモ(和人)の間にも似たような物語があったに違いない。「荒野の誓い」などというつまらない邦題をつけたやつに敵意を感じる。