ジェームス・ボールドウィン「頭のすぐ上に」抄訳(2)DELLぺーパーバツクP27

ジェームス・ボールドウィン「頭のすぐ上に」抄訳(2)DELLーパーバツP27

 

 

  降りそそぐ天上の光のもと、私は荒野を歩む
 
 これはアーサーの好きな歌で、ジュリアの教会で彼は初めて聴衆を前にして歌ったのだった。私たちの両親であるポールとフロレンスもそこにいた。ジュリアの祖母は、私たちの母と同じニューオリンズの出身の友人で、近くに住んでいた。ジュリアは当時11歳で、そこがホームチャーチだった。彼女の弟のジミーは9歳ぐらいだった。父のポールが、アーサーのうしろでピアノを弾いた。

 

ペンテコステ教会 日曜日: アーサー 13歳

 

  夜を昼に変える力もて私の行く手を守らせたまえ

 

ジュリアの教会は、パークアベニューのはずれ、129番通りの崩れかけた赤褐色砂岩のなかにあり、ニューヨーク中央線の下にあるせいで、電車が通過するときは、アーサーの歌も聴きとりにくくなった。

 

  暗闇を手探りで進むときも

  信仰は希望の星を見つめ

  そう遠くない日に

  生きる悲しみと危険から

  私は解放されるだろう

 

 13歳の少年らしくない大人びた歌だった。今でも覚えている。アーサーはダークブルーのスーツにYシャツ、ブルーの蝶ネクタイ、完璧に磨き上げた先の尖った黒いパンプスといういでたちで、髪にはウエーブがかかっていた。このウエーブがまた13歳の少年を大人びて見せていたが、これは仲間の言いなりにやったことで、何のつもりでこんなウエーブを、反対する人はいなかったのかと思う人もいたことだろう。ついでに言えば、一心不乱にピアノに向かっている父のポールも、仲間の真似をして、白髪まじりの縮毛をワセリンでなでつけて、まっすぐな髪に見せていた。