ジェームス・ボールドウィン「頭のすぐ上に」【あらすじ―6】

  ジュリアとホールの交際が始まったのは1957年、アーサーが独立してソロになった年だった。1960年ごろ、彼はフロリダの田舎で公民権運動に参加していたが、専属のピアニストがアラバマで逮捕、投獄されてしまった。私はアーサーが心配でツアーに同伴するようになったが、非暴力抵抗やフリーダムソングには一線を画していた。やがて、ミシシッピでのむき出しの暴力がニューヨークでも放送されるようになった。

 1963年に爆破された教会のうちの一つでアーサーが歌うことになっていた。行ってみると、偶然そこにジミーがいた。彼はアーサーのピアニストが拘留中であることを知っていて、アーサーの伴奏を申し出る。アーサーは快諾して演奏会が始まった。ホールは二人の黒人とともに入口の外の警備に立った。

 それから一年後、ハーレムのバーで、アーサーはホールに重要な告白をする。それは13歳のときに行きずりの男に見知らぬ家に連れ込まれ、性的ないたずらをされたというものだった。“he opened my pants and took it out ……(中略)……and then he knelt down and took it in his mouse”というものだった。アーサーは怖くなって泣きながら逃げた。家に帰ってみると、男がよこした25セント銀貨と2セントを握りしめていた。彼はそれを風呂場の窓から捨てた。それ以来、アーサーは男性にも女性にも触れることができなくなった。

 「僕を軽蔑しないでくれ。兄貴には隠し事はしたくないんだ」

 「なんで俺が、軽蔑なんかするもんか」と兄弟同士の会話を交わしながら、二人は雨の中を歩いて次のバーに入った。