ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ11】

  ホールはジュリアに父親のジョエルを呼んでくると言って、バーに戻ったものの、ジョエルとポールが額を寄せ合って小声で話しているので遠慮して、バーテンダーに話しかけた。幼いころに両親と別れ、「ひとりぼっちのクリスマスさ」と笑うこの男は、シドニーという名で、たちまちホールと意気投合した。ジョエルとポールの話で時折聞こえてくるのは、何とかしてエイミーを入院させるという相談だった。シドニーがいったん店を閉めて、9時にまた開けるというので、ホールはそのころにまた来ると約束し、ジョエル、ポールと一緒にバーを出た。

 ジョエルの家に帰ると、ディナーの支度がすっかり調っていた。エイミーとジョエルが交わす信仰の会話には耳をかさず、ホールはひたすらごちそうを口に運んだ。ジュリアはつつましやかであった。ホールの両親は押し黙っていたが、フロレンスはこの先ミラー家にふりかかる災厄を予見するかのように、ジミーを気遣う視線を送っていた。ディナーの終わりころ、エイミーの具合が悪くなり、ジュリアとフロレンスが彼女を二階の部屋に連れていった。その間に、ホールはミラー家を辞して恋人のマルタの家に向かった。