ジェームズ・ルドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ13】

 クリスマスイヴに、ホールと恋人のマルタ、母親のフロレンスと弟のアーサーが、父親のポールがピアノを弾いている店に集まった。話題はやはりミラー一家のこと、とくに13歳で牧師になったジュリアと、母親のエイミーの病気のことであった。マルタはジュリアが街頭で布教する姿を何度か見ており、彼女の将来を案じていた。マルタが近くのハーレム病院の看護師であることを知っているアーサーは、彼女にエイミーのことを頼めばいいと提案するが、嫌がるエイミーを縛って病院に連れていくわけにはいかないというのがフロレンスの意見だった。

 夕方ミラー家を出たポールは、仕事に入るまで2時間の空き時間があって、その間、ピーナット、クランチ、レッドとマリファナをやっていた。そんな時、ハイになったポールは、仲間にしかわからないおやじギャグを連発した。際限もなく続くおやじギャグのことを、ホールはチャイニーズ・ボックス――箱の中にいくつもの箱が入っている入れ子細工にたとえていた。

 ホールは、アーサーもマリファナをやっているとにらんでいた。注意しようと思うのだが、自身もアーサーと同じくらいの年にマリファナをやっていたので、偽善者めいて何も言えなかった。しかし、成長してもマリファナがアーサーの歌手生活に悪影響を及ぼすのではないかと心配していた。他者の人生に心を奪われることは、自分の人生を脅威にさらすことであり、ホールにとって、この世は人と人が互いにからくり箱の中の箱――チャイニーズ・ボックスそのものであった。