ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ15】

    思ったより早くホールに召集令状がきた。最後に二人で一緒に過ごしたニューヨークの日々は、不思議なくらい穏やかだった。マルタがホールに結婚を迫ることもなかったし、ホールから結婚の話を持ち出すこともなかった。朝鮮戦争が二人の前に立ちはだかっていた。これが本当の理由ではないにしても、あきらめに似た気持ちが二人の中にあったのかもしれない。夏になってエイミーが亡くなったときは、アーサーは<シオンのトランペット>の演奏旅行でナッシュビルにいて、ホールは朝鮮だった。

 ジミーは南部の祖母のところに預けられた。家にはジュリアとジョエルの二人だけになった。ジュリアは説教師をやめた。彼女が映画館から出てくるのを見たというやつがいた。アーサーは彼女がクランチと会っているのを知っていたが、彼自身は彼女と会うことはなかった。彼女がブロンクスの高校に通っていたとか、卒業後、その近くで掃除の仕事をしていたとかいうが、実際のところ見た者はいないのだ。クランチとレッドは朝鮮に来た。しかし、ピーナットは目が悪くなってワシントンのハワード大学に入学した。