ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ17】

歌い終わった<シオンのトランペット>の4人とマネージャー兼プロモーターのクラレンス・ウエブスターは教会の地下で食事をすることになった。アーサーの隣にすわったのは、ドロシー・グリーンという教師志望の18歳くらいのシスターだった。「このあと、どこへ行くの?」という彼女の問いに「ナッシュビルからバーギンガムへ」と答えると、バーギンガムはいかに黒人差別が激しい都市かを話し、アーサーの手首をつかんで「気をつけて。あなたは黒人でとてもかわいい。そういうのは彼らの気に入らないのね。毎週土曜の夜になると、やつらはあなたみたいな男の子を面白半分に殺すんだから」と脅す。気分が悪くなったアーサーは、ドロシーと一緒に教会の外に出た。テーブルにつくまで一緒だったクランチの姿が見えなくなっていた。外の街路には樹木が多く、アーサーは自分の首にロープが巻きついているように感じ、一本の枝に自分が吊り下げられている幻を見た。教会に隣接する離れ家があるので、もしかするとそこにクランチがいるのではないかと一人で入ってみたが、彼はいなかった。外に出ると、木にもたれて待っていたドロシーがアーサーの腕の中に飛び込んできた。

ニューヨークではそんなに心配することはないが、南部では一人姿が見えなくなると、事件に巻き込まれたのではないかと、クラレンスはじめ四人が心配したが、クランチはシスターの一人が運転する車で、ナッシュビルまで行ってきたのだった。その夜の宿舎は、クラレンスの友人が経営するホテルで、ピーナットとレッドが同室、クランチとアーサーが同室となった。