茲山魚譜(チャサンオボ)(DVD)★★★★★

茲山魚譜(チャサンオボ)(DVD)★★★★★

 まずは解題から――「茲」は「黒」を意味する。主人公の丁若銓(チョン・ヤクチョン)が黒山島に流罪になったとき、黒の字を避けて茲の字を用いた。魚譜は魚類図鑑である。若銓は京城(ソウル)の著名な知識人であるが、キリスト教・西学信奉の罪で黒山島に流され、そこで貧しい漁師の青年昌大(チャンデ)を知る。丁若銓を演じるのはソル・ギョング――私はこの俳優を「実尾島」で観た。その後、「力道山」「冬の小鳥」「殺人者の記憶法」などが評判になったが、観ていない。昌大役のピョン・ヨハンは「ミスター・サンシャイン」で見た。このテレビシリーズは2018年7月から9月まで、24回放映され、その後Netflix で放映された。両班の家に生まれた少女が、成長してスナイパーとして抗日闘争に挺身するようになる。彼女には親同士が約束したキム・ヒソンという許婚者がいて、それがピョン・ヨハンだった。彼は東京で長く生活していて、許婚者の顔も覚えていないくらいだったが、久しぶりに会った彼女が美しく成長していることや、抗日闘争に挺身していることを知って驚き、悩むが、しだいに理解し支援するようになる。ピョン・ヨハンはこれを軽く、明るく演じて好演だった。実は、私は茲山魚譜のポスターを見て、顔が一致したので映画を観てみたくなったのである。

 さて、昌大は向学心に燃えているが、貧しさゆえに本が手に入らない。久しぶりに離島に住む兄が「大学」を届けてくれたので、喜び勇んで取り組むが、歯が立たない。一方、都会育ちの若銓は魚類図鑑の作成を思い立ち、黒山島周辺の魚類に詳しい昌大に接近をはかる。かくして、昌大が若銓に魚類の名と習性を、      若銓が昌大に朱子学の基礎から教えるという協定が成立した。

 数年後、昌大は幼なじみの漁師の娘と結婚し、男児をもうけた。進士の試験にも合格した。こうなると、おのれの力がどこまで社会に通用するか、試したくなるのは当然だ。若銓は住居を提供してくれた寡婦とのあいだに女児をもうけたが、島を出ようとする昌大を「立身出世のための学問だったのか」と非難する。だが、「朱子学を修めた漁師」に何の存在理由があるというのか(昌大がこう言ったわけではない)

 昌大は妾腹の子であった。両班であり、本土の村の有力者である父親を頼って、徴税の監督官のような仕事につくことができた。しかし、そこで彼が見た者は、苛酷な徴税の現実であった。たまりかねて、「それでも人間か」と役人に殴りかかる昌大――父親にも見放されて悄然と島に帰ったとき、若銓は魚類図鑑を完成させて静かに息を引きとったところであった。再び島を離れる小舟の中から黒山島を眺めるとき、それまで白黒だった画面がカラーに変わる。

 「また黒山へくるときがあるかしらね」と問いかける妻に、

 「いや、茲山だ」と昌大が答えるところで映画は終わる。

 (全部観てから、監督が「金文子と朴烈」のイ・ジュニクであることを知った。この映画もよかった)