エリック・ドルフィ論集④「コンプリート・ウプサラ・コンサート」(ライナーノーツ翻訳)

The Complete Uppsala Concert

 

 ウプサラコンサートは、1961年にエリック・ドルフィがスエーデンで行った一連のコンサートの一つとして9月4日に行われた。それぞれ地元の大学に付属する学生会館のジャズクラブによって準備され、たいていダンスバンドが一緒に出演していた。このコンサートに参加したのは、およそ400人から500人で、椅子席はなく、全員が立ち見であった。

 リズムセクションは、ベースのカート・リンドグレンほか、ピアノのロニー・ヨハンソン、ドラムのルネ・カールソンである。四人はコンサートの一時間前に顔を合わせて、数曲のスタンダードナンバーと、ドルフィの“245”を軽くリハーサルしただけだった。本番では、ドルフィは「245」で13分という最長のソロをとっている。「ローラ」はドルフィの無伴奏アルトソロである。ミルト・ジャクソンの「バグズ・グルーブ」をドルフィがフルートで演奏している。この選曲にはまったく驚かされた。

 この思いがけない貴重なレコーディングのおかげで、われわれは、エリック・ドルフィの音楽の新しい側面をみることができる。1961年のあの晩、彼は珍しくゴキゲンな演奏を繰り広げていた。

 このアルバムを、カート・リンドグレンに捧げる。彼は私たちがハニンゲで会ったちょうど一週間後に、交通事故でこの世を去った。

 スエーデンのジャーナリスト、クラエス・ダルグレンがエリック・ドルフィから話を聞いた貴重なインタビューが残されている。エリック・ドルフィが生前にニューヨークで行われたもので、その主要部分を以下に紹介しよう。

 

ダルグレン : あなたのその前衛的な演奏スタイルは、いつごろからですか。

ドルフィ : さあ、ずっと同じスタイルだという人もいるし、僕自身は変わったと思いたいし、変わりつづけたいと思っているから……わからないなあ。ただ、言えることは、僕は時とともに進歩したいと思っているし、停滞はしたくないということだね。

ダルグレン : エリックさん、あなたは自由を求めていらっしゃるが、自由というものにも一定の限度がある。たとえば、あなたのインプロビゼーションは、いつも曲のコード進行と何らかの関係を保っていますね。

ドルフィ : それは曲によって違うけれど……いくつかの曲、特に僕が自分で書いた曲はコードでやっているし、最近では単に「サウンド」と呼ぶしかないようなものもやってきた。こっちのほうがあなたのいう「自由」があるのかもしれない。以前はコード一辺倒でやっていたんだが、何というか、コードというのは音程だからね。われわれが何かやろうとすると、いつもそこにあるものなんだ。音楽作品がコードで成り立っていて、われわれがそれを土台にして仕事をするのなら、コードを無視することはできないんじゃないかと思う。

ダルグレン : エリックさん、あなた自身ご承知のように、あなたの音楽は、これまでのジャズからかけ離れています。スイングしない。ある批評家は「アンチ・ジャズ」などというレッテルを貼っていますが、こうした反響についてどう思いますか。

ドルフィ : さあ、わからないなあ。そういうふうにいう人がいるんなら、そうなんだろう。たぶん「アンチ・ジャズ」なのさ。僕にはわからない。人が心の中で何を思っているか、僕にはわからないからね。僕が言えるのはそれだけだね。

ダルグレン : もう少しくわしく話していただけませんか。あなたは、あなたの音楽で何をやろうとしているのか。難しい質問かもしれませんが、いかがですか。

ドルフィ : そうだなあ、音楽って……むかし学生時代に何かで読んだんだけど、音楽とは人間であり、人間が音楽なんだ。そして、音楽とは時代の表現であり、場所と事物の表現なんだ。僕自身が仲間のミュージシャンと演奏するとき、人間性や時代や場所が表現されていると思うし、一人ひとりの背景や経験が表現されていると思うんだ。ある音楽の個性を感じるというのは、そういうことだと思う。それぞれの人がそれぞれの音を出す、その違いをあなたが聞き分けられるというのは、異なったことがらに対する個人個人の反応の違いからくるんだよね。

ダルグレン : 大勢の人の前で演奏するとき、聴衆の反応というのは気になりますか。その日の聴衆のムードというのは演奏に影響しますか。

ドルフィ : そりゃあそうさ。聴衆と一緒になっていることがわかれば、絶対心強いし、そうじゃないときは、自分の気持ちがうまくつたわらないんじゃないかと思うからね。演奏中にメンバーがのってるとしても、どうってことない。でも、聴衆を引き入れる助けにはなるね。

ダルグレン : エリックさん、ジョン・コルトレーンとの共演について話してくれませんか。

ドルフィ : 素晴らしかったよ。音楽的にいっても精神的にいっても、本当に信じられないくらいの経験だった。すべてがビューティフルだった。今までにない演奏で、確信に満ちていて、いつも音楽を愛している人、あるいはメンバーの一人ひとりが音楽を愛しているバンドで演奏する……それがビューティフルなんだが、どうも言葉で表すのは、ちょっと難しいな。

ダルグレン : あなたにとって、すごい事件だったわけですね。

ドルフィ : ジョンはインスピレーションの塊みたいな人でね。また共演の機会があればと思っているよ。

ダルグレン : 将来の希望とか計画は? あなた自身、あるいはジャズ全般の。

ドルフィ : そう、大事なことは、僕自身……どのミュージシャンもそうだと思うけど、今やっていることを続けていけること、そのことが、私と私の仕事に最良の結果をもたらすと思う。なぜなら、仕事を続けてゆく限りは、私は成長していける……演奏しているときはいつも、次はもっといい演奏をしようと思っているからね。 (了)