ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」あらすじ(42)

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」あらすじ(42)

ジミーとアーサーは18番街のデイストリートの3階か4階の屋根裏部屋に一緒に住んで、練習に励んでいた。下の階は中小企業が入っていたが、縮小したり倒産したりで、出入りがはげしかった。一階は工場で昼間は機械の音がうるさかった。5時か6時を過ぎると工場の操業は終わり、近所に家も少ないことから、アーサーの練習には理想的な環境であった。

 

ああ、世界は飢えている

生活の糧をもとめて

 

静かな冬の日の土曜の午後、アーサーは窓際で歌いながら外の軽食堂をながめていた。入口のところに二人のアル中浮浪者がいた。二人とも白人で、ウイスキーのボトルを回し飲みしている。一人は擦り切れた上着、一人は破れた黒いレインコートを着ていて、防寒に役立つようなものは身に着けていなかったが、寒さを気にしているようすもなかった。アーサーの目から見る限り、貧しさは人種の壁を超えない。白人は白人同士で放浪し、黒人は黒人同士で放浪するのだ。

アーサーにとって、ジミーはかけがえのない伴奏者であり、ジミーにとってもアーサーはかけがえのない歌手であった。ダンサーを例にとってみると、ソロで卓越した技能を発揮するダンサーもいれば、共演者を選ばぬダンサーもいる。また天地創造のときから定められたような相手を得て、ソロでは達成できないような世界を表現するダンサーもいる。

アーサーとジミーはまさにそれだった。このころ彼らが練習していた曲がある。

 

 このことを世界に告げよう

 私は祝福されていることを国中に告げよう

 みんなに告げよう

 主のなされたことを

 みんなに告げよう

 聖霊がやってきて

 主は喜びを、喜びを、喜びを

 私の心にもたらされたことを
(ネットより: 沼崎敦子訳)