2021-01-01から1年間の記事一覧

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ22】

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ22】 それから一週間後に、クランチは召集に応じてニューヨークを去った。夏が終わり、秋も過ぎて、人通りがめっきり少なくなった街を歩くアーサーの頭の中には、ゴスペル「新しい年が来る前に」が響…

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(22)DELLぺーパーバックP233~

「初めに聞きたいことがあるんだよ、アーサー」――クランチはすわり直してアーサーの背中に話しかけた――「俺がいなくなったらどうするつもりなんだ?」 「わからないよ、クランチ。そんなこと、考えたくもない」 「考えなきゃだめなんだ!」 彼は手を伸ばして…

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ21】

アーサーと一緒にジュリアを訪ねた三日後が四日後に、クランチは一人でジュリアを訪ね、父親のジョエルが不在だったので、二人は性的関係を結んだ。父親が奪ったものをクランチが取り返してくれたと感じ、「こんな幸せな気持ちになったのは初めて」と彼に打…

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(21)DELLぺーパーバックP233~

(ジュリアが家に帰ると、ジョエルはYシャツのままでソファにすわっていた) 「まだいたの?」 「お前が戻るまで待つと言ったじゃないか。このところ、俺はヒマなんだよ」 彼女はジョエルの横にハンドバッグを投げて待った。母がよくそうしていたように、腕を…

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ20】

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ20】 ジュリアとの偶然の再会をきっかけに、クランチはある日曜の午後、アーサ ーを誘って彼女の家を訪れた。ドアを開けたのは父親のジョエルだった。ジュ リアはまだ寝ているということだった。リビ…

ジェームス・ボールドウィン「頭のすぐ上に」翻訳中

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(20)DELLぺーパーバックP219~

クランチとアーサーがニューヨークに戻って、五日か六日たったころ、クランチはジュリアとばったり出会った。土曜の夕方の125番通りだった。彼は七番街を横切って、レノックスと地下鉄のほうに向かっていた。いつもの土曜の夕方と同様、通りは人がいっぱいで…

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(19)DELLぺーパーバックP218~

ニューヨーク生まれの者が他の都市のことを扱うのは、まったく無茶というものである。せいぜいうまくいって「間違ってる」、最悪の場合は「でたらめじゃないか」と見えてしまう。どの都市も悪意があり、支離滅裂なのである。どの都市も歴史を――いかにも光栄…

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ19】

朝鮮戦争がそれぞれの将来に暗い影を投げかけていた。ピーナットはおばあちゃんをおいて戦場にいくのはしのびなかった。レッドは路上の遊び友だちと別れるのがいやだった。ニューヨークに帰ってから、アーサーは両親のもとに戻り、クランチは3番街13街路にア…

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(18)DELLぺーパーバックP211~

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(18)DELLぺーパーバックP211~ 「君たち二人はどうなってるのかね」と、ウエブスターが問いつめるように言った。日曜の午後、ヴァージニアのいなかの教会の階段をおりている途中だった――<シオンのトランペッ…

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ18】

<バーミンガム(アラバマ州)> バーミンガムは聖書にあるような都市だ。世界の終末を告げる大天使ガブリエリのトランペットが聞こえるような気がする――果てしなく平坦な道が続き、猥雑な、夢も希望もないような街である。コーラスグループ<シオンのトランペ…

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(17)DELLぺーパーバックP187~

クランチのベッドほうを見ると、彼は両手を頭のうしろに組んであくびをしていた。 クランチのベッドのそばの窓は通りに面していた――窓には日除けとカーテンがあり、カーテンは閉められていたが、アーサーは樹木のそよぎを感じた。アーサーのベッドは壁際にあ…

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ17】

歌い終わった<シオンのトランペット>の4人とマネージャー兼プロモーターのクラレンス・ウエブスターは教会の地下で食事をすることになった。アーサーの隣にすわったのは、ドロシー・グリーンという教師志望の18歳くらいのシスターだった。「このあと、ど…

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(16)DELLぺーパーバックP175~

第三部 ゴスペルシンガー 働きなさい――夜がやってくる 伝承 テネシー州の小さな町で、ピーナットとレッドとクランチとアーサーは、最後の曲を歌い終わった。<静かに、静かに、だれかが私の名を呼んでいる>この曲はクランチがリードボーカルで、アーサーは…

サルトル「嘔吐」の新旧翻訳対照              

久しぶりにサルトル「嘔吐」を本棚から取り出した。そうとう古い。奥付を見ると、<昭和43年8月1日改訂重版発行>とある。森本和夫氏が新訳を出したのは、もう10年前になるだろうか。気になっていたのだが、先日、プルースト「失われた時を求めて」に取り組…

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ15】

思ったより早くホールに召集令状がきた。最後に二人で一緒に過ごしたニューヨークの日々は、不思議なくらい穏やかだった。マルタがホールに結婚を迫ることもなかったし、ホールから結婚の話を持ち出すこともなかった。朝鮮戦争が二人の前に立ちはだかってい…

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(14)DELLぺーパーバックP152~

ジェームス・ボールドウィン「頭のすぐ上に」抄訳とあらすじ フロレンスとマルタがミラー家を訪れたとき、ドアを開けたのはジョエルで、マルタがあとで言うところによれば、彼は二人を見て驚いたようすだった。 彼は上着を着ず、ひげも剃らず、マルタの目か…

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ14】

(シドニーの店<ヨルダンの猫>に一人でいるときに、ホールが考えたこと) クリスマスに起きた出来事を考えてみると、ミラー家の際立った特徴というのは、ジュリアという13歳の伝道師がいることだけだ。しかし、本当はこのことが重要なのではない。問題は父親の…

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(13)DELLぺーパーバックP145

次の日、マルタと私は遅く起きた。二人の間に正しい行いなんてものは、実に全く何もなかった。普段は一日中ベッドにいるのだが、彼女はエイミーの家でママと会う約束があったので、あわててベッドから飛び降りた。激しく、熱く、飢えたようにセックスをした…

ジェームズ・ルドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ13】

クリスマスイヴに、ホールと恋人のマルタ、母親のフロレンスと弟のアーサーが、父親のポールがピアノを弾いている店に集まった。話題はやはりミラー一家のこと、とくに13歳で牧師になったジュリアと、母親のエイミーの病気のことであった。マルタはジュリア…

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(12)DELLぺーパーバックP140

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」翻訳中 私たちが店に入ったとき、ポールは演奏中だった。客を押し分けるようにして、カウンターの端の、アーサーとフロレンスが見える場所に出た。 フロレンスはすぐに私たちを見たが、アーサーはそうではなかっ…

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」翻訳中

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ12】

二人はジョセフィンおばさんのクリスマスパーティから抜け出して、シドニーのバーに行った。店内は窓やクリスマスツリーに電飾が入り、客もいっぱいで、夕方来たときよりにぎやかだった。年配の客が多く、父親や母親のような人たちが二人を歓迎してくれた。…

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(11)DELLぺーパーバックP130 マルタはハーレム病院からそう遠くない、5番街の139に住んでいた。彼女のおばさんは西インド諸島出身の大柄な美人だが、マルタが通りを渡ってまちに出るのを見張っていた。私は…

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」翻訳中

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ11】 ホールはジュリアに父親のジョエルを呼んでくると言って、バーに戻ったものの、ジョエルとポールが額を寄せ合って小声で話しているので遠慮して、バーテンダーに話しかけた。幼いころに両親と別…

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(10)DELLぺーパーバックP110

フロレンスは単刀直入に言った。「ジョエル、エイミーを専門のお医者さんみせてあげて。のんびりしている場合じゃないわ。ジュリアのお祈りなんか当てにしてたらだめよ!」 ジョエルはおびえたような顔になった。おそらく、彼は女性からこんなにきつく言われ…

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ10】

ホールは父のポールにマフラー、母のフロレンスに腕輪、弟のアーサーには指輪と黒と灰色のストライプのネクタイを4本プレゼントした。父からはスエードのジャケット、母からはウールのタートルネックセーター、弟からはドングリのついた銀の首飾りのプレゼ…

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳とあらすじ

「この茫漠たる荒野で」(Netflix)★★★★+α

何だろうなあ、この長い邦題は、原題は“News of the World”なのに。たしかに原題もパッとしないが、邦題は内容をつかんでいないばかりか、そこなっていると思う。 主演の男優はどうもトム・ハンクスに似ているが、老けているし、まさかネットフリックスのオ…