ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ20】
ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ20】
ジュリアとの偶然の再会をきっかけに、クランチはある日曜の午後、アーサ
ーを誘って彼女の家を訪れた。ドアを開けたのは父親のジョエルだった。ジュ
リアはまだ寝ているということだった。リビングでワインを飲みながら、ジョ
エルは息子のジミーがニューオリンズのおばあちゃんのところにいるから、み
んなで行かないかと誘いをかけたが、召集をまじかに控えているクランチは断
らざるをえなかった。<シオンのトランペット>が夏のツアーでおとづれた南
部の諸都市の印象を話しているところへ、ジュリアが二階からおりてきた。緑
色のバンダナをして、身体にぴったりしたチョコレート色の服を着て、ベージ
ュのハイヒールをはいた彼女は、大人びて別人のようであった。クランチと同
性愛の関係にあるアーサーとしては、彼女の気持ちがクランチに傾いているよ
うで気になるところであったし、わずか一年の間に別人のように変化した原因
は母親の死だけだろうかと疑った。そして、怖ろしい疑惑が雲のようにわき上
がってくるのを押さえることができなかった。
三人を前にして、ジュリアは説教師をやめると宣言した。「なぜ?」というク
ランチの問いに、彼女は「私は何もわからない。どうやって人の魂を救済する
のか。自分の魂を救済するのさえも」と答える。「だけど、ほかの説教師はみん
なそれを話してるじゃないか」とクランチ。「ほかの説教師はそれを知っている
かも知れないわ。だけど、説教壇では話さないのよ」とジュリア。「ジュリアは
混乱してるんだ。だいじょうぶ」とジョエルがとりなした。
ジュリアがアイスクリーム・コーンを食べたいというので、三人で家を出た
が、アイスクリームは口実で、家を出たかったとジュリアは正直に話した。ア
ーサーが少し遅れて部屋を出たので、玄関のドアを開けたとき、階段の下の歩
道で待っていたクランチとジュリアがアーサーを見上げたが、助けを求めるよ
うな二人のまなざしは生涯忘れられない――と、のちにアーサーは兄のホール
に話した。
ジュリアを真ん中に、三人手を組んで地下鉄の入口まできたとき、彼女は「ま
た会いたいわ」と言った。それに対して、クランチは「召集前に会いに行くよ」
と答えた。