2020-04-01から1ヶ月間の記事一覧

梶井基次郎

病人の妄想といってしまえばそれまでだが、病める者の特異な感性が、「自己の中の他者」という二十世紀最大のテーマと交錯したときに、梶井基次郎の文学は発生した。 魚屋が咳いている。可哀想だなあと思う。ついでに、私の咳がやはりこん な風に聞こえるの…

短篇小説 ユウキャンネバーキャプチャリットゲイン

「わっ、すっご~い、これ」という声がうしろのほうで聞えた。振り返ると、若い女性が小さな陶芸の作品群に見入っていた。 粘土を適度な硬さに溶いて、スポイトのようなものでたらしながら積み重ね、焼いたもののようだ。私もついさっきそれを見て、作者の精…

恋人と別れるときに贈る音楽(ポピュラー編)

ベン・E・キング「Seven Letters」月曜、一人ぼっちになってしまって悲しい。火曜、僕が愛したのは君だけだ。もうだれも愛せない。水曜、お願いだ。戻っておくれ。~日曜、これが最後の手紙、もう書けない…… ベン・E・キング「Don't Play It No More」 その…

恋人と別れるときに贈る音楽(クラシック編)

①マスカーニ「カバレリア・ルスティカーナ」間奏曲 ②マスネ「タイスの瞑想曲」 ③ハイドン「セレナーデ」 ④ラフマニノフ「パガニーニの主題による狂詩曲第18変奏」 ⑤モーツアルト「バイオリン協奏曲 (K216)第2楽章」 ⑥ベルリオーズ「幻想交響曲」第2楽章ワルツ。 ⑦シ…

彼女たちは何を歌ったか―黒人女性歌手の嘆き、呻き、叫び

Billie Holiday「Strange Fruit 」Southern trees bear strange fruit. 南部の木には奇妙な実がなる。 strange fruit とは、リンチで吊るされた黒人の死体のこと。 Nina Simone 「Don't Explain」 久しぶりに帰ってきた男に「言い訳しなくていいのよ。襟の口…

梶井基次郎「夕凪橋の狸」

梶井基次郎の作品で、「檸檬」「櫻の木の下には」「城のある町にて」など、代表作とされる作品とはだいぶ趣が違うが、以前から気になっている作品がある。彼の作品にしてはめずらしく物語性に富んでいて、完成度は高いのに、欠けている部分があるため習作と…

James Baldwin ‘How Long The Train's Been Gone’「教えてくれ汽車はいつ出たんだ」全訳完了記念