2022-01-01から1年間の記事一覧

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(34)DELLぺーパーバックP392~ 「みなさん、きょうはニューヨークから歌手をお招きしています。だいぶ前からこちらでの公演をお願いしていたのですが……」彼女はここで少し間をおいて笑顔を見せた。「その辺の…

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ33】

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ33】 アーサーの初めての南部公演ツアーは、ピーナットが車を運転し、ホールがマネジャーとして同行した。最初の公演地バージニア州リッチモンドの教会は、ごく普通の黒人教会であったが、モントゴメ…

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(33)DELLぺーパーバックP382~

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(33)DELLぺーパーバックP382~ ピーナットとアーサーと私が南部へ行ったときは、どのステージもアーサーには伴奏者がいなかった。ピーナットは会場整理から警備、そのほかアーサーの右腕となって働いた。私に…

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ32】

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ32】 ジミーは彼自身が南部で体験した黒人差別を語ったあと、南部での演奏旅行を計画しているアーサーに「これでも南部に行きたいか」と問いかけた。アーサーの答えは「そのときは君にガイドを頼みた…

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(32)DELLぺーパーバックP373~

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(32)DELLぺーパーバックP373~ 演奏旅行を希望しているアーサーが南部について尋ねると、ジミーは身体を乗り出して、南部の土地柄について話した。それはアーサーだけでなく、ジュリアや私にも興味深いものだ…

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ31】 アーサーがホールのアパートを訪ねてきて、大成功だったカナダ公演の話をしているときに、ジミーがやってきた。ジュリアもくることになっていた。ジミーはピアニストになるのが夢で、幼なじみで…

珊瑚海海戦 石渡正人 ミッドウエー海戦について調べているときに、その一ヵ月前の珊瑚海海戦に触れている記事を多く目にした。互いの空母から発進した航空機による世界で初めての航空機決戦であり、大艦巨砲主義の時代の終焉と航空機の時代の幕開けを告げる…

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ30】

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ30】 その夜、二人がジュリアの部屋に帰ったのは、2時近くだった。ジミーは寝ていた。飲みながら話しているうちに、ホールは激しい性欲に襲われた。勃起したペニスがパンツを突き破ってヘソまで届き…

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(30)DELLぺーパーバックP351~  

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(30)DELLぺーパーバックP351~ シェルダン広場と東18番通りの間のどこかで、ジュリアと私は恋に落ちた。 当時のニューヨークでは黒人を乗せるタクシーは少なかったので、私たちはずいぶん歩いた。夜、手を挙…

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ29】

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ29】 二人でジミーのうわさ話をしているところへ、ジミーが戻ってきた。彼はピアニストになるために猛練習していて、南部では公民権運動に参加して逮捕されたこともあった。身近にアーサーというゴス…

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(29)DELLぺーパーバックP336~

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(29)DELLぺーパーバックP336~ ジュリアは東18番通りのビルの最上階のロフトに住んでいた。派手な装飾の施された灰色の金属製の手すりがある褐色砂岩の階段を三段上がると、玄関に観音開きのドアがあり、郵便…

石川淳の森鷗外論3

石川淳の森鷗外論4

石川淳の森鷗外論4

石川淳の森鷗外論3 石川淳の森鷗外論2

石川淳の森鷗外論2

石川淳の森鷗外論1

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ28】

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ28】 飛行機の中で雑誌を広げたホールは、ワインの広告のモデルがジュリアにそっくり(実はジュリア本人)なのを見て、ジュリアに思いをはせる。 ジュリアはどこにいるのだろう。ジュリアと弟のジミーの…

茲山魚譜(チャサンオボ)(DVD)★★★★★

茲山魚譜(チャサンオボ)(DVD)★★★★★ まずは解題から――「茲」は「黒」を意味する。主人公の丁若銓(チョン・ヤクチョン)が黒山島に流罪になったとき、黒の字を避けて茲の字を用いた。魚譜は魚類図鑑である。若銓は京城(ソウル)の著名な知識人であるが、キリスト…

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(28)DELLぺーパーバックP331~

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(28)DELLぺーパーバックP331~ 私の知る限り、空港や空の旅について書いた人はいない。 まず第一に、空を飛んでいると考えただけで、恐怖のあまり生きた心地がしなくて、書くどころではないというのが、世界…

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(27)DELLぺーパーバックP326~

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(27)DELLぺーパーバックP326~ (ホールはサンフランシスコのホテルの一室で三十歳の誕生日を迎えた) ホテルの一室で、私は一人だった。勤めているニューヨークの広告代理店の支店の仕事で、カリフォルニアの…

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ26】

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ26】 シドニーは彼の弟が起こした殺人事件については詳しく語らなかったが、「弟に起きたことは、俺にも起きることではないか」と言った。これは弟の事件を、 差別され抑圧された黒人全体の問題として…

芥川龍之介「支那游記」について

芥川龍之介「支那游記」について 1921年(大正11年)、29歳の芥川龍之介が、大阪毎日新聞の特派員として上海を訪問・取材したときに、三人の人物と面談した。章炳麟、鄭孝胥、李人傑である。このような場合、新聞社の依頼によりだれかが人選するのだろう。だれ…

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ25】

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ25】 ジョエルとジュリア親子の窮状を救うには、クランチの帰りを待つしかないというところで話を切り上げ、アーサー、ホール、ピーナットの三人で<ヨルダンの猫>へシドニーを訪ねることにした。シ…

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(25)DELLぺーパーバックP296~ もう暗くなっていた。母の顔もほかの者の顔もよく見えなくなっていた。街灯 に明かりがついた。外の音楽や人の話し声がぼんやり聞こえる。 ポールが私のほう見て言った。「お母…

ジェームス・ボールドウィン「頭のすぐ上に」翻訳中

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ24】

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ24】 第四部 養子 第四部は、復員船に乗ってニューヨークの埠頭に着いたホールと出迎えのアーサーの再会の場面から始まる。アーサーは18歳になっていた。将校、兵士、白人、黒人で混雑する中を抜けて…

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(24)DELLぺーパーバックP274~

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(24)DELLぺーパーバックP274~ (喫茶店を出て、アーサーはジュリアを家まで送ったが、家の前まで来ると、ジュリアが「家で少し休んでいったら?」と誘う。アーサーは断りたかったが「友だちでいてやってくれ…

ジェームス・ボールドウィン「頭のすぐ上に」翻訳中