ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ24】

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ24】

 

第四部

養子

 第四部は、復員船に乗ってニューヨークの埠頭に着いたホールと出迎えのアーサーの再会の場面から始まる。アーサーは18歳になっていた。将校、兵士、白人、黒人で混雑する中を抜けて駐車場に入ると、青いポンティアックの運転席にいたのは、コーラスグループ<シオンのトランペット>のメンバーの一人、ピーナットだった。三人で家に帰り、ホールはお土産として母のフロレンスに翡翠のイヤリング、父のポールに豪華な彫刻がほどこされたパイプ、アーサーにはドレスガウン、ピーナットには余分に買っておいたものの中から、朝鮮の派手な戦時ポスターを渡した。その後、ホールの無事帰還を祝うパーティとなり、フロレンスがジュリアの身に起ったある事件の話をした。それによると――

 ある日の早朝、電話が鳴った。受話器を取ると、だれの声だかわからなかったが、「モンタナかあさん、モンタナかあさん、助けて」と必死に叫んでいる。続いて「私、ジュリアよ。お願い、すぐ来てちょうだい」

 大急ぎで服を着て、タクシーでかけつけると、ジュリアのアパートの前に人が集まっていて、開け放ったドアのそばで、やせ細ったジュリアが泣き叫んでいた。血まみれの顔は、目も口も見分けがつかないほど腫れあがっていた。強盗が入ったかと思い「だれがこんなことを」と言ったが、ジュリアは「赤ちゃんが、赤ちゃんが」と叫ぶばかりだった。だれかが「警察を呼ばなくちゃ」というのを抑えて、フロレンスは救急車を呼んだ。そしてジュリアの身体を毛布で包んだとき、彼女の脚の間から大量に出血しているのに気づいたのだった。「だれがこんなことを」ともう一度言ったとき、周囲から「おやじさんだよ。殴られたショックで流産したんだな」という声が聞こえた。

 救急車が病院に着いたとき、幸いなことに看護師のマルタ【訳者注:フロレンスの息子ホールの恋人】がいた。ジュリアは細い身体で大量出血したため予断を許さない状態だったが、安心してすべてを彼女にまかせることができた。ジュリアは妊娠三カ月であった。彼女を妊娠させた相手の男の名を聞いたとき、フロレンスは血も凍る思いだった。