ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ10】

 

 ホールは父のポールにマフラー、母のフロレンスに腕輪、弟のアーサーには指輪と黒と灰色のストライプのネクタイを4本プレゼントした。父からはスエードのジャケット、母からはウールのタートルネックセーター、弟からはドングリのついた銀の首飾りのプレゼントがあった。そして、それぞれブレゼントされたものを身につけて教会に向かった。4本のネクタイは、コーラスグループ<シオンのトランペット>のデビューのためだった。その日は、フィラデルフィアニューアーク、ブルックリンのコーラスグループも参加していた。<シオンのトランペット>はトップの出演で、ピアノ伴奏はポールがつとめ、クランチが歌いながらギターを弾いた。一曲目は「神の御子は」、二曲目は「宿屋に泊まる場所なく」を歌い、デビューは大成功を収めた。

 クリスマスの行事が終わって、午後、ミラー家をモンタナ家の全員が訪れた。クランチ、ピーナット、レッドも一緒だった。ジュリアは教会から帰った後は瞑想の習慣があって、自分の部屋に閉じこもってしまった。フロレンスはエイミーの部屋に入って、二人ともしばらく出てこなかった。

 フルーツパンチを飲んでいるアーサーとカルテットのメンバー三人を残して、ワインを飲みに移動したキッチンには、当時まだめずらしい電気冷蔵庫があった。そこでポールが声をひそめて話したことは、妻のエイミーは手術が必要なほどの病に侵されており、ジュリアはそのために断食し、祈りを捧げているということだった。やがてエイミーとフロレンスが部屋から出てきたので、二人は話を中断した。エイミーは別の部屋でカルテットの四人やジミーと話していて、フロレンスだけがキッチンに入ってきた。