ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ26】

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ26】

 シドニーは彼の弟が起こした殺人事件については詳しく語らなかったが、「弟に起きたことは、俺にも起きることではないか」と言った。これは弟の事件を、

差別され抑圧された黒人全体の問題として引き受けることを意味する。だからこそ、続いて次のような力強い言葉が生まれるのである。

 「俺は弟を監獄から救出しなけりゃならない。我々黒人は、みんな監獄にいる。我々自身を救出しなけりゃならないんだ」

 さらに、「白人どもは、神は白人だという。俺たちのキンタマを切断し、黒人女をレイプし、子どもたちを虐殺し、俺たちを豚みたいにハーレムに囲い込み、すべては神の思し召しというわけさ。白人どもの神だからな」と熱く語るが、ホールの反応は冷ややかなものである――盗まれた神を盗み返すなんてことには興味はない。俺は盗品取引のために育てられたんじゃない。俺の考えでは全部でたらめだ。我々がこしらえたものなら、我々が破壊することができる。聖なる力というものは、人間が必要があってこしらえたものだ。我々がこしらえた神が我々の苦しみを引き受けてくれるとしても、神のために我々が引き受ける苦しみは、はるかに大きいじゃないか。

 <ヨルダンの猫>の前でシドニーと別れたホールは、もうシドニーとは会うことはないだろうと思うのだった。