ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ28】

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ28】

飛行機の中で雑誌を広げたホールは、ワインの広告のモデルがジュリアにそっくり(実はジュリア本人)なのを見て、ジュリアに思いをはせる。

ジュリアはどこにいるのだろう。ジュリアと弟のジミーの消息を聞かなくなって久しい。ジュリアが驚異的なスピードで回復したのは聞いていた。ジミーも元気で、働きながら学校へ通っているということだった。クランチは復員後、ジュリアのもとに戻ったが、長続きはしなかった。彼とアーサーとの関係は、くわしいことはわからないが、これも長くは続かないだろう。アーサーの人生はクランチの人生を超越していて、クランチには、生涯を通じて男性を愛することの意味がわからないのだ。クランチは今もニューヨークにいて、学校の不良少年指導員の仕事をしていて、つき合う女の子を次々と変えていた。レッドは麻薬におぼれ、ピーナットは公民権運動のデモに出ていた。

私は南部に行ったことがない。非暴力運動を信じていないが、この運動には限界がきていた。アーサーはピーナットと一緒に何度かデモに出ていた。やめたほうがいいと思っていたが、とめることはできなかった。私もニューヨークにいて爪をかみながら、テレビのニュースや電話の音にびくびくしているよりは、いっそアーサーと行動をともにしたほうが落ち着くと考えることがあったが、それができなかった。広告業という私の仕事を考えないようにしていても、
いつか苦渋の選択に直面せざるを得ないことはわかっていたし、転機は目前に迫っていたのだ。