ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(18)DELLぺーパーバックP211~

ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(18)DELLぺーパーバックP211~

「君たち二人はどうなってるのかね」と、ウエブスターが問いつめるように言った。日曜の午後、ヴァージニアのいなかの教会の階段をおりている途中だった――<シオンのトランペット>の一行は、ワシントンD.C.経由でニューヨークに帰ろうとしていた。

「何のことですか?」クランチは慎重に答えた。

アーサーとレッドとピーナットはうしろのほうにいるのだが、姿は見えなかった。クランチはできるだけゆっくり歩いた。

「耳が遠いのか?」

「ときには。相手の声が小さかったり、ばかでかいと――」

二人は歩みをとめるわけにはゆかなかった。

「ほかの連中は君たちのことをラブバードと呼んでるじゃないか。それに、君とアーサはこそこそ別行動をとりたがる」

彼は階段の下の地面を見つめながらゆっくり歩いているクランチを見つめた。

「あいつら僕のことを何と言おうと、気にしないですよ」とクランチは言った。「ふざけたガキですから」とつけ加えて、ウエブスターの顔を見た。

「もう一度聞くけど」とウエブスターは言った。二人は一番下の階段にいた。うしろのメンバーに立ちどまって口論しているように見られたくないので、歩き続けねばならなかった。

二人はほんの数秒間歩いた。クランチはアーサーの視線を背中に感じたので、うしろを振り返らずにゆっくり歩いた。

「何でしたっけ」

ウエブスターはクランチを見た。クランチもウエブスターを見た。

「僕は勘がいいんだよ」とウエブスターはゆっくり言った。「僕のことを知らないんだよ」

クランチは何も言わなかった。

「もう一度聞いていいかな」

「ええ、どうぞ」

「君たち二人は――」二人は立ちどまって互いに見つめ合った。「どうなってるのかな」

クランチはうしろを振り返った。彼はアーサーに合図を送った。アーサーは合図を送り返し、クランチのほうに向かって足を速めた。

クランチは両手をポケットに突っ込んで、ウエブスターのほうに向きなおり、ニヤリと笑った。

「どういう意味ですか?何考えてるんですか?」

二人はまた歩きはじめた。クランチの背中でギターが揺れた。

「言ったよね――僕は勘がいいんだよ」

「勘がいいあなたが、僕らがどうなってるか知りたいと。なぜですか?」

「知っておきたいんだよ」

クランチはウエブスターを見つめ、声を震わせて言った。

「僕たちのことを知らないけど、知っておきたい?」

「当然じゃないか――いつだって、君たち二人を別々の部屋にすることができるんだよ」

クランチは立ちどまった。二人は立ちどまって、互いに見つめ合った。クランチは頭をのけぞらせて笑った。肩にかけたギターのストラップに手をかけた。

「そんなことできないでしょう。きたねえおやじだなあ」彼は楽しそうに言った。そんなことしたら、頭をかち割るぞ。それであんたのやっていることをバラしてやる。あんたは俺のやってることを知らないんだ。どのみち、俺たちはニューヨークに帰って、あんたはお払い箱さ」彼は低く抑えた明るい声で、かすかに笑いながら、開き直って言った。「ほかに何か言ってみろ――人のことをとやかく言ったり、アーサーに指一本でも触れてみろ、舌を引き抜いて、手をもぎ取って、二度と人前に出られねえようにしてやるぞ。仕事はここで終わり、せいせいするぜ。家に帰ったらあんたはお払い箱だぜ。ギャラをもらったら家に帰るよ。あんた、俺たちのギャラ払えるんだろうな」

アーサーが走り寄ってきた。クランチは笑いながら片手をアーサーの肩にまわした。冷たい風の中で、ギターがかすかに鳴った。

「とにかく、俺たちのことであんたにとやかく言わせねえよ。おあいにくさま」