ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ18】

バーミンガム(アラバマ州)>

バーミンガムは聖書にあるような都市だ。世界の終末を告げる大天使ガブリエリのトランペットが聞こえるような気がする――果てしなく平坦な道が続き、猥雑な、夢も希望もないような街である。コーラスグループ<シオンのトランペット>の四人は、ここで新しい音楽を耳にした。あとになって、それは<ファンキー>と呼ばれる音楽であることを知った。南部に来た当初、クランチが「何かが僕たちを待ち受けていた」と言ったのは間違いではなかった。南部は怖いところだと思っていたが、黒人たちは危険ではなかった。ゲットーで生まれ育った彼らには、芝生があって複数の自家用車をもち、車庫つき運転手つきの黒人住宅は驚きだった。また、お茶に呼んでくれた夫人が、家では淡い青色の薄手のゆったりしたワンピースを着ていたこと、お高くとまった巨乳の娘が、ごみ缶をかき回したことがないようなきれいな爪をしていること、「法律の勉強をしてるんですよ」と紹介された息子が、紺のブレザー、オープンネックの白シャツを着て、黒ズボンに黒光りするパンプスをはき、握手した手に大きな指輪をしているのにも驚かされた。

アトランタ(ジョージア州)>

アトランタはチェッカー盤のような街だ。黒人ばかりだと思いつつ、角を曲がると突如白人ばかりとなる。逃げ出そうものなら、つかまってリンチに遭うに決まっている。そんなときは、曖昧に笑って、ショーウインドウをのぞきながら、もと来た道を引き返すしかない。

マネージャー兼プロモーターのウエブスターが用事で出かけて、土曜の午後自由行動となったが、危険な街を歩き回るわけにもいかず、ポケットには小銭しかないので、ウエブスターがランチとディナーの代金を払っておいてくれたカフェで暇をつぶしていた。そのうち、「いつまでこんなところにすわってるんだ」とピーナット。「角に玉突き場があったよ。玉突きやろうぜ」とレッド。クランチも同意して三人が立ち上がったが、アーサーは頭痛がするので、先に宿舎に帰って休んでいることにした。眠っているところをクランチに起こされた。

このあと、DELL社ペーパーバックのP203からP209まで、クランチとアーサーの同性愛が描かれる。

(訳者ノート:ボールドウインは「ジョバンニの部屋」から「もう一つの国」「教えてくれ汽車はいつ出たんだ」と、一貫して同性愛をテーマにしている。この「頭のすぐ上に」では、これまでの作品になかった同性愛の詳細な描写がある。今でこそ、LGBTといわれてゲイも社会的に認知され、テレビで堂々とカミングアウトする男性もいるが、この作品が書かれたのは50年前である。当時は特に軍隊でゲイに対する差別は激しく、命の危険さえあった。ボールドウインはこの作品で多くの読者を失ったことだろう。本もあまり売れなかっただろう)