ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ19】

 朝鮮戦争がそれぞれの将来に暗い影を投げかけていた。ピーナットはおばあちゃんをおいて戦場にいくのはしのびなかった。レッドは路上の遊び友だちと別れるのがいやだった。ニューヨークに帰ってから、アーサーは両親のもとに戻り、クランチは3番街13街路にアパートを借りた。娼婦をしている母親や弟妹のために稼がなくてはならないが、アーサーのことも心配だった。年下の男性を愛するようになったことにためらいがあった。クランチの見方では、アーサーの彼への愛より、彼のアーサーへの愛がはるかに強いのだった。アーサーはまだ子どもだ。彼を取り巻く世界は燃え上がっていて、理解しがたく先行き不明なのは、子猫と同じだ。クランチが朝鮮から帰るころには、アーサーは大人になって、何もかも変わってしまっているだろう。レッドとピーナットは、遠く離れた異郷の、想像を絶する環境の中で青春を終えることになるだろうが、クランチの青春は、このハーレムで終わろうとしていた。