ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」あらすじ(40)

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」あらすじ(40)

   前回の南部公演ツアーでは、ピアニストのピーナットが行方不明になったが、今度は同じピアニストのスコットが警察に逮捕された。アラバマ州モントゴメリーの道路でつばを吐いたというのが警察のいう罪状であるが、スコットが金を持っていなかったので、浮浪罪まで加えられて90日の刑が言い渡された。ホールに言わせれば、「逮捕」ではなく「誘拐」であった。アーサーとホールは保釈金を工面するのに駆け回らねばならなかった。いくつかの黒人教会の任意の寄付だけではとても間に合わなかった。アーサーは音楽事務所に電報を打ち、弁護士を頼んだ。二人はこのとき初めて、弁護士なしで南部にいることの危険性に気づいたのだった。とにかく急いで金をつくって、鎖につながれているスコットを救出しなければならない。一日も無駄にできない。一回の公演もキャンセルできない。アーサーとホールは、ピアニスト抜きで大慌てで次の公演地フロリダに飛んだ。

 フロリダのはずれにある教会の地下におりていくと、そこにジミーがいた。破れたセーターを着て、サンドイッチを食べてたべていたが、すっかりやせ細って、すぐにはジミーとわからないくらいであった。彼は小さいころからゴスペル歌手のアーサーにあこがれて、いつかアーサーの伴奏者になりたいとピアノを練習していたので、見知らぬ土地でスコットの代わりのピアニストを探さねばならないという難題に直面していたアーサーにとっては、まさに渡りに舟、天の助けであった。

 ジミーのおかげで演奏会は成功裡に終了した。スコットを救出してほうほうのていでニューヨークに戻ったホールに、ジュリアから電話があった。