ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」抄訳(40)DELLぺーパーバックP504~

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」抄訳(40)DELLぺーパーバックP504~

(アフリカのアビジャンからニューヨークに戻ったジュリアは、南部に行って空き部屋となったジミーのアパートに滞在することとなった)

 彼女はジミーの残したメモを読んでからバスルームに入り、シャワー水を我慢のできないくらいの温度に上げた。長旅の跡を消すように手早く着ているものを脱いだ。彼女は鏡を見た。アフリカの太陽のせいで肌は黒くなり、髪も荒れていたが、彼女にとっては好ましいことだった。アフリカでの生活で、彼女は何を得て何を失ったのだろうか。まだはっきりと言葉には表せないが、何かを得たことを感じていた。たぶん彼女はそれを確かめるために帰国したのだ。

 浴槽に入浴剤を入れて熱い湯の中に身体を沈めると、感謝の気持ちがわいてきた。粗いスポンジで身体をこすり、頭蓋骨や脳の中の何かを流すように強く髪を洗い、罪を洗い流すように身体全体を洗った。すると、常日ごろ考えていたことが鮮明になってきた。彼女はいつかアフリカの風のないお昼に見た池に浮かぶ木の葉のように、しばらく湯船の中で身体を伸ばしていた。彼女は自分の身体や腰にさわってみた。アフリカでの生活も彼女の体重を増やすことはなかった。それからオイルと香水を全身にぬると、疲労感がやわらいていった。しかし、彼女の孤独感はいつ逃れることができるかわからぬほど根深いものであった。さらに、彼女の美しい容姿が彼女自身を責めるのであった。

 彼女は長い灰色のローブを身にまとい、リビングでドリンクをグラスに注いだ。そして、煙草に火をつけ、ソファに腰をおろし、物思いに沈んだ。