ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」あらすじ(37)

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」あらすじ(37)

 パリのアーサーから近日中に帰国するという電話があった。ホールに南部へまた一緒に行ってくれないかという話もあった――彼はどこにいてもずっと考えていたらしい。ホールもそうだった。

 兄のホールに電話したあと、夜のパリの街に食事に出た。コニャックを飲みながら、クランチのことを思った。いろいろあったが、クランチが最初の同性の恋人でよかったのか、悪かったのか、アーサーにはわからなかった。

 クランチが朝鮮から帰ってきたとき、ふさぎ込んでいつ爆発するかわからない怒りを抱えているように見えた。ジュリアのことが忘れられなくて、彼女が流産した赤ん坊のことが重くのしかかっていたせいだろう。彼はアーサーの身体にふれようとしなかった。

 アーサーがジミーに会ったのは、ジュリアとジミーとレッド・ロブスターで夕食を共にしたあと、二人で125番通りのバーで飲んだのが最後だった。

 小さいころは、アーサーはジミーを気にとめたことがなかった。ジミーは少女説教師ジュリアの無口の弟で、家の中にも信者が押しかけてジュリアをもてはやすものだから、ジュリアに近づけないような存在だった。

 ジミーはキャンデーやアイスクリームを買ってくれたり、映画に連れて行ってくれるアーサーが好きだったし、ステージに立って歌う姿にあこがれも抱いていた。ニューヨークに住み続けるのか南部に帰るのかというアーサーの問いに、ジミーは近いうちに南部に帰るつもりと答えた。次の日の午後、アーサーはカリフォルニアに行き、戻ったときは南部に行ったあとだった。そのころ、ジュリアがホールのもとを去ってアフリカへ旅立ち、ホールとアーサーとピーナットが南部の公演に出て、ピーナットが行方不明になるという事件があった。