ジェームズ・ボールドウイン「頭のすぐ上に」抄訳(16)DELLぺーパーバックP175~

第三部

ゴスペルシンガー

働きなさい――夜がやってくる

伝承 

テネシー州の小さな町で、ピーナットとレッドとクランチとアーサーは、最後の曲を歌い終わった。<静かに、静かに、だれかが私の名を呼んでいる>この曲はクランチがリードボーカルで、アーサーはバックコーラスのメインだった。<ああ、母を呼ぶがいい>とクランチが歌うと、アーサーが<だが、母はお前を助けることができない>と歌う。ピーナットがピアノを弾き、レッドが嘆く。<ああ、主よ、主よ。私はどうしたらよいのでしょう>

彼らの心情にぴったりの歌だ。

最後の献金が終わり、すべてどこかへ持ち去られた。

彼らはのどから手が出るほど出演料が欲しかった――いつもノーギャラだった――がこの恐怖を少年らしい笑顔の下に隠していた。それは彼らにはわからない少年らしさであって、そのために彼らはいつもギャラを払ってもらえないのだった。南部は彼らにとって初めてだった。彼らはナッシュビルを知らないが、少なくとも都市であることは知っている。今彼らがいるのは、ナッシュビルから20マイル離れた――歩くのでなければそう遠くない――町だった。

彼らのマネージャーは、クラレンス・カーターという47歳くらいの黒人音楽教師で、ハーレムの外へ出たときはプロモーターでもあった。4人はそれぞれの考えで、クラレンスはプロモーターなんかやったことないだろう思い、また、彼は南部に来て自分たち以上に驚いているだろうと理解していた。これはとんだ勘違いであった。事実は、クラレンスは南部出身であり、4人よりは南部について知識があった。白人と談笑しているときの彼は、笑いながら冷たいオートミール――あるいはむしろ、白人たちが南部を離れたら二度と口にしないような冷たいハマニーの粒が舌の底にひっかかっているような気がしたことだろう。ああ、彼の笑いの裏には! 彼はどれほど4人を――街でうわさ話を耳にしたとき――誇りに思ったことか! 4人はボーイズと呼ばれることが嫌だった。ウエブスターはいい教師だったが、北部ではそうでなかったのに、南部にいる彼は嫌いだった。北部では見せなかった南部の黒人に対する侮蔑的態度に驚かされた。彼らは、一方では北部に友人や親戚がいることを理解しながらも、南部に残る勇気のないウエブスターを軽蔑しているように見えた。