ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」あらすじ(41)

 ホールはジュリアに「君がなぜ西アフリカ、コートジボワールアビジャンに行ったのか、理解に苦しむ」と言ったが、ジュリアをアフリカに誘った黒人男性がいた。その男は教会学校の出身で、妻と二人の子どもがおり、ジュリアの父親ぐらいの年齢だった。ジュリアに言わせれば、彼は肌が黒いというだけでなく、それまで彼女が出会ったことのないような「真の黒人」だった。「一緒にアフリカに行ってくれ」と誘われたとき、最初は断ったが「アメリカにこだわる理由は?」ときかれて考えた。「こだわる理由はあなただったのね」と言って、彼女は手を伸ばしてホールの手の上に乗せ、ほほえんだ。ホールはジュリアが彼の一部であり、だからこそ永遠に解き明かすことのできぬ謎であることを悟った。ジュリアの話は続く。「彼は私のことを不毛だと言ったわ。出産はさまざまな形で訪れる。後悔は流産のようなものだ。悲しみは喜びに至る唯一の鍵だともね。私は、過去を振り返らず前向きに生きることを教わったの」

 二人は6時に店を出た。ホールはジュリアをタクシーに乗せて別れたが、彼には将来の妻ルースと7時半に会う約束があった。