ジェームス・ボールドウィン「頭のすぐ上に」抄訳とあらすじ
(1)冒頭部分
初めは鼻から、次に首の静脈から血がほとばしった。口からも血が噴き出し、目に飛び散ってアーサーの視界を遮った。そして彼は倒れた、倒れた、倒れた、倒れた、倒れた(*)。
(*) 原著にdown, down, ……と5回書いてある。
【あらすじ―1】
アーサーは語り手「私」の7歳下の弟で、有名なゴスペル歌手である。ロンドンのパブの地下のトイレで死体が発見された。「私」(46歳)が電話で知らせを受けたのは、木曜日の朝。妻のルースは買物に出かけていて、息子のトニーと娘のオデッサは学校だった。