ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ23】

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ23】

アーサーはクランチから預かった部屋の鍵をジュリアに渡した。彼女は部屋を掃除し、植木鉢を買って置いたり、椅子のカバーやテーブルクロスを取り換え、部屋を模様替えして、父親から逃げる避難所として使っていた。

ある土曜の午後、アーサーはそこへジュリアを訪ね、二人で映画「サンセット大通り」を観た。【訳者注:ビリー・ワイルダー監督のこの映画は、サイレント時代の大女優ノーマ(グロリア・スワンソン)と売れないシナリオ・ライターであるジョー(ウイリアムホールデン)という年の離れた男女のもつれた愛情の物語で、ノーマの愛情を重荷に感じたジョーが、若い恋人ができたのを機にノーマのもとを去ろうとしたが、半狂乱になったノーマに銃で撃たれるという破局をむかえる】映画を観終わった二人は、喫茶店で次のような話をする。

ジュリア「どうして彼女は彼を撃ったのかしら。別れたいっていうなら、別れてあげればいいじゃないの?どうもよくわからないわ」

アーサー「若い男に夢中になって、頭がおかしくなったんだよ」

ジュリア「気が狂ったのね。あんな愛なんて信じられない。人それぞれ生き方があるというのに」

アーサー「殺したくなるほど愛するというのもいいと思うけど」

ジュリア「冗談じゃないわ。そんな女だったら、あなたがお風呂に入るのも怒りだすわよ」