ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ34】

ジェームズ・ボールドウィン「頭のすぐ上に」 【あらすじ34】

集会が終わって外へ出ると、まだ大勢の警官がいて、その前を通らねばならなかった。白人警官が黒人に暴行を加えるのに理由など必要ない。集会参加者の中には今夜のうちに命を落とす者がいるかもしれない。一年後生きているかどうかもわからない。非常に危険な状況の中で、リード夫妻の家に着いたときは救われた思いでこんなことを思うのだった。

忘れることができないものを抱えているのは黒人だけではなく、白人も同じだ。お粗末な白人たちは自分自身を、それから子どもたちをモンスターに変えるのに忙しい。我々は寝ているときも起きているときも白人の存在に怯えているわけではない。ほかにやることがあるからだ。白人たちはどうか。ほかにやることがないのだ。白人の男と黒人の男の違いは、黒人の男が白人の男の母親や娘をレイプすることはない。あったとしても、怒りに目がくらんでのことで、
正気の沙汰ではない。私が白人男性の母親や娘を好きになって、相手が好意を寄せてくれることはあるだろう。それを彼女の夫あるいは父親に打ち明けることはできる。だが、それが逆の場合だと、白人男性が私に打ち明けることはあり得ないのだ。白人はリンチで黒人のペニスを切り取ってどうしようというのか。漂白することはできない。自分のペニスを切り取って、黒人のそれを縫いつけるわけにはいかない。マントルピースの上に立てておくか。標本のようにガラスのジャーに入れておくか、壁に釘で打ちつけて飾っておくか、さもなければ食べてみるか。どんな味がするのだろう。栄養はあるんだろうか。